第2章 ヘルサレムズ・ロットの日常
「おい、レオ。タバコ買ってくれよ」
「嫌ですよザップさん! 毎回毎回俺にたかるの止めてもらえませんかね?!」
昼時の混雑したコンビニ店内で、常連には見慣れた光景が繰り広げられていた。
癖毛の黒髪の少年──レオナルド・ウォッチ。
浅黒い肌に銀髪が際立つ青年──ザップ・レンフロ。
何も事情を知らない者からすれば、彼らは単なるそこいらの若者にしか見えない。
そこいらの若者が、グダグダと仲良くつるんでいるようにしか見えない。
しかし彼らはこれでも立派に秘密結社『ライブラ』の構成員なのである。
超人的な能力で、世界の平和を守るライブラメンバーとはいえ、平常時の彼らはいたって普通の若者だった。
「いいじゃねぇか、お前こないだ特別手当もらってただろ? ちぃっとばかし先輩に奢ってもバチは当たらねぇぜ?」
「そんな事言って、俺から金巻きあげてばっかじゃないっすか!」
「しょーがねーだろ。給料全部スッちまって金ねーんだからよ」
「そんな開き直って言う事じゃないでしょうが」
この金をせびっているザップという男はいつもこうだ。
金が手元に入れば、それをすぐに使い果たしてしまう。
使い道は、女を買うか、酒、薬、そして賭け事。
『飲む 打つ 買う』を地で行く男だった。
「大体ザップさんは計画性なさすぎなんですよ。なんでもらってすぐ全額使っちゃうんですか」
「なんでって……そりゃあ使いたいからに決まってんだろ」
「……理由なんて聞いた俺が馬鹿でしたよ」
レオナルドは痛む頭を抱え、ため息をついた。
これまでの付き合いでよく分かっていたはずなのに、なんて無駄な質問をしてしまったのか。
この無駄なやり取りで昼休憩の時間がみるみる減っていることに気づいたレオナルドは、ザップの要求を無視することに決め込んだ。
「ったくよぉ。なんかあったらお前を守ってやるのは誰だっつー話だよ」
ブツブツと背後から呪詛のように言葉を吐くザップを尻目に、レオナルドは新商品のサンドイッチ2種類を交互に眺めている。
「お? おお?」
背後のザップが何やら言っているが、レオナルドは先ほどの呪詛の続きだと思い込み、ザップの言葉を聞き流した。
しかし、聞き流したのは間違いだった。