第12章 対価
「ミス・アメリア、彼女には少し特別な事情があるのだ。こう見えても君より年上の女性だ」
ミスタ・クラウスのお言葉がよく飲み込めない。
どう見ても私より年下の子供にしか見えないのに、私より年上の女性だと仰った。
混乱を極める私に、また更なる混乱がやって来た。
今目の前にいるミス・エステヴェスと瓜二つの子供が、病室に現れたのだ。
「鎮痛剤飲む前に軽くでいいから食事をとりなさい。あ、左手は使わないでね。傷開くから」
言って、二人目のミス・エステヴェスはサンドイッチと飲み物を手渡してくれる。
「貴方は、双子なのですか?」
顔も、背丈も、着ているものも全く同じ。
横に並んだミス・エステヴェス二人を交互に見やると、彼女はふっと笑った。
「いいえ。私は一人っ子よ。ただ自分を分裂させられるだけ」
「分裂???」
首をかしげる私の目の前で、二人のミス・エステヴェスがあっという間にくっついた。
先ほどより少しだけ体が大きくなった気がする。
くっついたミス・エステヴェスは、むにょんとまた二人に分かれた。
やはり理解は追いつかない光景だったけれど、彼女が言わんとしていることはなんとなく分かった。
「鎮痛剤は必ず一回一錠。服用間隔を4時間以上あけること。これだけは守って」
「はい。ありがとうございます」
「じゃ、また何かあったらすぐ呼んでね。私はいくらでもいるから」
手を振ってミス・エステヴェスは二人連れ立って病室を出て行った。
本当に、教会の外は摩訶不思議な事ばかり。
これが“普通”だと受け入れられるようになる日がくるのかしら。
「ミス・アメリア、食事をとりたまえ。傷が痛むのだろう」
「え、ええ……痛みはしますが……」
受け取ったサンドイッチと飲み物。
こんな時でもお腹はすいている。
食べたい、とは思うのだけれど。
口には出来ない。
戻してしまうに決まっている。
「我慢はいけない。今しばらくは薬で痛みを抑えた方が良い」
「あの、大丈夫です、私。さっきよりそんなに痛くないですし……」
「無用な我慢をする必要はない。食事をとって薬を飲みたまえ」
「……」
「右手だけで食べにくいのなら、私が食べさせてあげよう」
「!! いえ!! そんな滅相もない」
ミスタ・クラウスにそんな事させられない。