第12章 対価
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頭が、ぼんやりとする。
重たい瞼をこじ開けると、突然目の前にミスタ・クラウスの顔が現れた。
「気分はどうだね?」
「少し、頭がぼうっとはしていますが……大丈夫です」
「そうか……良かった」
「あの、ここは……?」
起き上がろうとすると、ミスタ・クラウスがやんわりと押しとどめる。
まだ寝ていなさい、ということだろう。
ミスタ・クラウスに逆らう理由もなく、私はまた体を横にした。
「ブラッドベリ中央病院だ。心配ない、怪我の処置もすべて終わっている」
「怪我……」
左手に目をやると、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
リアに突き付けられた刃物を握りしめたことを思い出す。
途端にチリチリと左手が痛みだす。
「っ……」
「痛むかね」
「ええ……」
「看護師を呼ぼう。少しの間、我慢出来るかね?」
ミスタ・クラウスの言葉に、こくりと頷いて返事をする。
目を細めたミスタ・クラウスの大きな手が、私の頭を一撫でした。
あたたかなその手が離れていくのが寂しく思える。
私、ずいぶんとミスタ・クラウスの事を──いえ、そんな事考えてはいけない。
ミスタ・クラウスは私とは住む世界が違いすぎる方。
それはあのホテルでの数時間で、十分身に染みて分かっているはずなのに。
けれど、どうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。
「あ、目が覚めたのね」
病室にひょっこりと顔をのぞかせたのは、ぶかぶかの白衣を身にまとった眼鏡をかけた子供だった。
「ミス・エステヴェス。ちょうどいいところに。ミス・アメリアは左手の傷が痛むようだ」
ミスタ・クラウスはその子供に、私の症状を話す。
まるでその子供がお医者様のような話しぶりだ。
目の前の光景に混乱しながら、黙って様子をうかがっていると、ミス・エステヴェスと呼ばれたその子は腰に手をあてて頷きだした。
「でしょうねぇ。かなり深い傷だったし。鎮痛剤を出しておくわ」
「あ、あの……その子は……?」
「私? あなたの処置を担当した医者よ。ルシアナ・エステヴェス。よろしくねミス・アメリア・サンチェス」
「よろしく……」
医者だと名乗るミス・エステヴェスに、私の理解は追いつかないでいた。
こんな小さな子供が、お医者様だとは、一体全体どういうことなのだろう。