第12章 対価
そしてその背後にあるだろう組織の存在も、とにかく謎が多すぎる。
その謎の大部分は、目の前のベッドで横たわる少女が目を覚まさなければ解きようがない。
「まさかここまでこの子がキーパーソンになるとは思ってもみなかったよ。始め、君が探して欲しいと言ってきた時はてっきり私情の捜索だと思っていたからね」
女性向けブランドのショッピングバックを抱えたクラウスの姿が頭に浮かび、スティーブンは思い出し笑いをしそうになっていた。
「……半分は私情だったかもしれない」
「おや、そうなのかい」
意外なものを見るような目で、スティーブンはクラウスの横顔を見つめた。
クラウスの視線は先ほどからずっと少女に注がれたままだった。
その視線の中に、どんな感情が入り混じっているのかスティーブンは計り兼ねていた。
「彼女に似合いの服を、渡したかったのだ」
少女を見つめるクラウスの目が、幾分か細くなる。
慈愛に満ちたそのまなざしに、クラウスは親のような思いで彼女を見ているのだとスティーブンは理解した。
スティーブンもクラウスも子供はいない。伴侶も、ましてや恋人と呼べる存在さえいない。
けれど自分より弱い者を慈しむ気持ちは、二人とも当たり前に持っている。
クラウスは誰よりもその気持ちが強かった。
だからこそ、このヘルサレムズ・ロットに自ら志願して拠点を置き、ライブラという組織のリーダーを務めているのだ。
この街の、そして世界を守るという気概において、クラウスの右に出る者はいない。
「……あまり、深入りはしないでくれよ。彼女が何者かまだ分かっていないんだから」
「……ああ」
スティーブンは釘を刺した。
アメリア自身の事、そして事の全容が分からない限り、アメリアを全面的に受け入れることは出来ない。
けれど最初からライブラの事務所に連れて来ようとしていたクラウスの事だ。
大事なところではきちんと線引きをすると分かってはいても、少女に肩入れしすぎて判断を見誤られては困る。
クラウスの少女への視線とは反対に、スティーブンの視線は鋭さを帯びていった。
「ここは君に任せていいかな。僕はギルベルトさんの見舞いに行ってくるよ」
「分かった。後で私も行くと伝えておいてくれ」
「了解」
クラウスを病室に残し、スティーブンはギルベルトの元へと向かった。