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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第12章 対価



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「状態は落ち着いているから心配はしないで。今はすこし眠っているだけだから」

低体温症の治療と、左手の処置にそう長い時間はかからなかった。

ベッドに寝かされたアメリアは静かな寝息をたてている。
命に別状はなかったことに安堵し、クラウスはベッドのそばに椅子を置いて、そこで彼女が目を覚ますまで待つことにした。

「左手にくっついてたナイフだけど、特に変わったところのない普通のナイフね。…多少の変形を除けば」

ルシアナはアメリアの左手にくっついていたナイフをクラウスの前に取り出して見せた。

ナイフは小さな折り畳みの果物ナイフ。
その刃にはくっきりとアメリアの指の跡が残っている。
柄の部分はプラスチックだろうか、微妙に歪んでいる。
刃先をしまう部分も変形していて、折りたたんで仕舞う事は出来なくなっていた。

騒ぎの後、いくらクラウスがアメリアの手からナイフを取り除こうとしても、握りしめた彼女の手を開くことは出来なかった。

まるで手の中でナイフが溶けてしまったような、そんな状態だった。

「彼女の手のひらは重度の火傷を負っていたけど、人工皮膚の移植が上手くいったから、火傷の跡は残らないと思うわ。ただ数日は左手を使わない方がいいわね。傷が開くかもしれないから」

「ミス・エステヴェス、迅速な処置に感謝する」

「それが仕事だから。…でも、お礼を言われるのは悪くないわね」

ナイフをクラウスに手渡して、ルシアナは病室を後にした。
ルシアナの後ろ姿を見送り、クラウスは再びベッドに横たわるアメリアに視線を戻す。

「……その子、能力を持ってるのは間違いないな」

スティーブンの言葉に、クラウスも頷く。

「物質を、変性させる力だろうか」

「ああ、そのナイフが何よりの証拠だ。ただ怪我を負ったところを見ると、どうやら自分でコントロールは出来ていないようだが……」

厄介な少女に目をつけてしまったものだ、とスティーブンは内心思ったものの、口には出さなかった。

クローンで、その上本人が自覚していない力を持っていて。
彼女の関係者にはまた他の力を持った者がいる。

アメリアを含めて彼らの目的が今現在は不明なことに加え、“彼ら”があとどれだけの人数存在しているかも分からない。

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