第11章 急接近
「あなたの、運転手を……殺してしまったんです」
ざわついた店内で、ここだけしんと静まり返ってしまったようだった。
兄さんの罪の告白に、ミスタ・クラウスは表情ひとつ変えずにじっと兄さんを見つめているだけだった。
何をお考えになっていらっしゃるのだろうか。
激高するでもなく、兄を断罪するようなそぶりもない。
ただ指を組んだ姿勢のまま、幾度か瞬きをして、ゆっくりと首を振った。
「ギルベルトは生きている」
その言葉に、私も兄さんも驚かずにはいられなかった。
目の前で半身に引き裂かれたはずの、ミスタ・ギルベルトが生きている。
一体どういう事なのか。
ミスタ・クラウスが嘘をつくとは思えなかったし、そんな嘘をつく必要性も感じない。
けれど私の目の前で確かにミスタ・ギルベルトは……。
「…ギルベルトは生きているが、君が殺したとはいったいどういう事だろうか。詳しくお聞かせ願いたい」
ミスタ・クラウスの目が、少しだけ鋭く光った。
ゾクリと背筋が粟立つ。
まるで獣に睨まれたみたいに、本能的に“恐怖”を感じた。
それは兄さんも同じだったようで、膝の上でぎゅっと拳を握りしめていた。
俯き小刻みに震える兄さんの肩にそっと触れようとした時、クックッと、兄さんが喉で笑っているのに気が付いた。
「……ハハッ! 傑作だ。あの怪我で生きてるだって?」
兄さんの声音が変わった。
表情も、さっきまでの兄さんとは違う。
これじゃまるきり、復讐に燃えていた時の兄さんに戻ってしまったみたいだ。
「事実だ。ギルベルトは生きている」
怒り出すでもなく、ミスタ・クラウスはそう淡々と仰った。
ただ目の鋭さだけは、少しずつ増してきているように見える。
「そうか。この街はおかしな事ばかりだな、ミスタ・クラウス。体を貫かれても平気だった僕がいるんだから、同じような不死身の人間がいてもおかしくはないか」
「……に、いさん?」
私の呼びかけに、兄さんは全く反応してくれなかった。
兄さんの視線はミスタ・クラウスだけに注がれている。
「ますます貴方が欲しくなったよ、ミスタ・クラウス」
「兄さん、まさか最初からそれが目的で……?」
ニィと口端だけをあげて笑う兄さんは、ミスタ・クラウスの手を掴んだ。
掴まれた瞬間、ミスタ・クラウスの口から苦痛の声が漏れ出る。