第11章 急接近
「ミス・アメリア。色々と聞きたい事はあるが……まずは君が無事で本当に良かった。あの時、車の惨状を見て、君にもしもの事があったらと気が気でなかった」
ミスタ・クラウスの優しいお言葉に、また胸が痛んだ。
ミスタ・ギルベルトの事があったというのに、私の事をそこまで心配してくださっていたなんて。
嬉しい反面、どうしても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
私がもっと早くに別行動をとっていれば、ミスタ・ギルベルトが巻き込まれることはなかったかもしれない。
「っ、申し訳ありません」
「? 何故君が謝るのかね?」
「それは……その……」
駄目。
ミスタ・クラウスの目が見れない。
俯いてしまった私に、隣の兄がポンと肩を叩いた。
兄は優し気な笑みを浮かべて、後は自分が話すと目で言っていた。
私はこくりと頷いて、兄にその後の話を任せることにした。
「ミスタ・クラウス。初めてお目にかかります。アメリアの兄のイアンと言います」
「ミス・アメリアが会ってほしいと言っていたのは、君か」
「はい。本日はお呼び立てして申し訳ありません。しかしどうしても貴方と直接お会いしてお話したい事があったのです」
「何かね?」
ミスタ・クラウスはテーブルの上で指を組み、少し身を乗り出すようにして兄の話に耳を傾けた。
「まずは、妹の命を何度も救っていただいたこと、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。それにあんなに高価な服までいただいて、本当にどうお礼をしたらいいのか……」
「それには及ばない。私が勝手にした事だ」
「……妹の話通りのお人ですね。見ず知らずの赤の他人に、何の下心も無く、あのような振る舞いをなさるとは」
「ね、お会いしたら分かるって言ったでしょう兄さん。ミスタ・クラウスはとても素晴らしい方なのよ」
兄さんの反応に嬉しくなって、思わず兄さんの肩を叩きながらはしゃいでしまった。
兄さんはやんわりと私の手を下ろさせて、少し悲しそうな笑みを浮かべた。
「そうだな。アメリアの言う通り、こんなに素晴らしい方に、僕はなんて事を……」
突然うなだれてしまった兄さんに、ミスタ・クラウスは驚かれていた。
どうしたのかね、と焦るミスタ・クラウスに、兄さんはすすり泣くような声で話す。
「僕は……僕は、取り返しのつかない事をしました」