第11章 急接近
パパの作るものはどれもおススメだからさ、と笑って言うと、少年と少女は笑顔で頷いた。
2人は一体どんな関係なのか、少しだけ気にはなったものの、お客のあれこれに首を突っ込みすぎてはいけない事は、ビビアンも重々承知していた。
ごゆっくり、と声をかけてカウンターに戻りかけた時、またお客がやって来た。
大柄なその赤毛の男は、ビビアンも顔なじみの男だった。
「クラウスさん、ごめん。今ご覧の通り満席で」
ビビアンが言うと、クラウスはいや、と小さく首を振る。
持ち帰りの商品の注文でもするつもりなのかと、ビビアンがポケットから注文票を取り出す。
「待ち合わせをしているのだ」
「そうなの? もう来てる?」
クラウスはぐるりと店内を見回して、ふとボックス席に目を止めた。
「ああ、そこの席に」
「そう。良かった」
「コーヒーを一つ頼めるだろうか」
「あいよ」
軽く会釈をして、クラウスは待ち人のいるボックス席へ向かう。
ビビアンが何気なく目で追うと、クラウスは先ほどの少年少女の向かいに腰を下ろした。
(ああ、クラウスさんを待ってたのか)
だからあの二人は向かい合って座らなかったのか、とビビアンは心の中で一人腑に落ちた。
コーヒーマシンで淹れたコーヒーをクラウスの元へ届けると、そのボックス席の異様な空気感をビビアンは感じ取った。
どこか緊張感が漂うクラウスと少年少女の姿に、彼らが一体何を話すのか気になったビビアンだったが、カウンターから呼び鈴が鳴る。
慌ててビビアンはカウンターへと戻り、クラウス達を気にしつつも職務に没頭することとなった。
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「遅くなってすまない」
「いえ、私達が早く来すぎてしまったんです」
会って早々、ミスタ・クラウスと私はお互い頭を下げ合った。
ミスタ・クラウス。
彼の姿が店の入り口に見えた時、心臓が止まるかと思った。
それくらい、胸が苦しくなって仕方なかった。
何故そんな風になったのだろう。
ミスタ・クラウスに対する罪悪感? 申し訳なさ?
その気持ちも、もちろんあったけれど、もっと大きな感情がひとつあった。
“お会いできて嬉しい”
彼の顔を、姿を見ただけで、私の心臓の音はせわしなくなる。
元気そうなお姿を見られただけで、胸が満たされる思いだった。