第11章 急接近
スティーブンの脳がフル回転する中、ダニエルはまたひとつ、重要な情報をよこした。
『それとな。アメリアの死亡は確実だ。当時の司法解剖の報告書も残っている。現場の写真から遺体も確認した。だが、妙なんだ』
「妙、とは」
『念のために墓場を調べたんだが、棺の中は空っぽだった。骨の欠片ひとつすらねぇ』
「火葬でもして遺骨は他の場所にやったんじゃないのか」
『いや、母親の話だと土葬だったと』
「……誰かが、遺体を持ち去った?」
そこまで口にすると、スティーブンの脳裏にあるひとつの仮説が浮かび上がってきた。
死んだはずの少女が生きている謎。
消えた遺体。
生んだ覚えのない子供。
それらを結び付けて見えてきたのは──……。
「クローン、か」
『あんたもそう思うか』
「この街じゃ荒唐無稽な話でも無いからな」
『ったく、とんでもないヤマを引き当てちまったかもなアンタのボスは』
「かもしれないな」
誰が何の目的で。
アメリアのクローンを作ったのか。
また謎は増えてしまったが、少女の謎に一歩近づいた。
「クローンを作れるような設備の整った施設か……」
『いくつか目星はつけてある。少女探しと並行してやってくれるか』
「ああ、分かった」
『だが教会の件も忘れるんじゃねぇぞ』
「分かってるよ」
ダニエルとの会話が終わると、スティーブンは早速クラウスに連絡を取った。
「クラウス。ミス・アメリアの件で進展があった」
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─隠れ家─
「えっ……? ミスタ・クラウスに……?」
「そう。会ってきちんとお詫びとお礼を言いたいんだ」
私は兄さんの言葉に驚いていた。
ミスタ・クラウスの事をおかしなヤツだと言っていたあの兄さんが、彼に会いたいと話してきた。
どういう心境の変化があったのか分からないけど、兄さんが前の兄さんに戻ったような気がして嬉しかった。
前の優しい兄さんに。
けれど、あんなに復讐に燃えていた兄さんが、突然そんな事を言い出したものだから、少し引っかかるところはある。