第11章 急接近
いつまで続くか分からない鬼ごっこに、スティーブンがため息をついた時だった。
胸元のポケットがブルブルと震えた。
取り出したスマホにはダニエル警部の名が表示されている。
「──スティーブン。警部、何か進展が?」
『アンタらが探してた少女、見つかったぞ』
突然飛び込んできた一報に、スティーブンは色めきたった。
腐ってもヘルサレムズ・ロット警察。
たったあの一枚の画像からよくぞ見つけたものだと感心したのも束の間、スティーブンの脳裏に一つの懸念事項が浮かんできた。
「…警部、ひとつ確認したいんだが」
『なんだ』
「その少女、金髪じゃないか?」
『そうだが。よく分かったな』
──やはりか。
少しでも浮かれてしまった自分の浅はかさに、スティーブンはため息をつきそうになったが、なんとか堪えた。
「…名前は、クロエ・アンダーソン」
『そうだ……なんだ、アンタらも既に把握済みか』
「すまない警部、伝達ミスだ。その子は既に調査している。列車事故とも、アメリア・サンチェスとも無関係だ。他人の空似だよ」
クロエの事を伝え忘れていたのは完全にスティーブン側のミスだった。
ダニエルの怒号が飛んでくると思ったスティーブンは、そっとスマホを耳元から遠ざけた。
だが意外な事に、ダニエルの怒りの声は届くことは無かった。
『ハッ。アンタらの調査も意外とザルだな』
「どういう事だ?」
ムッとした声でスティーブンが尋ねると、ダニエルはフンと鼻をならした。
『DNA鑑定の結果、アメリアの母親と、クロエ・アンダーソンには親子関係があると分かった』
「何だって?」
『……だがな、母親はクロエの事は全く知らないと言うんだ』
「親子関係なんだろ? 遺伝子上は。…その母親の親類の娘だとか、そういうオチか?」
『いや、それはない。母親は一人っ子だからな。いとこもいなかった』
スティーブンの頭脳をもってしても、ややこしい事態に変わりは無かった。
DNA鑑定では親子だと認められたのに、当の本人は否定している。
母親が嘘をついているとしか現状では考えられなかったが、ダニエルもそこまで馬鹿な男ではない。
さすがにそこはきちんと確かめた上で報告をしてきているはずだ。