第13章 エルヴィン・スミス
プログラムが終わり、割れんばかりの拍手がやまない。
今 この夢空間が生み出した陶酔感に、我々全員が溺れている。
鳴りやまぬ拍手に応えるように、指揮者がステージに戻ってきた。
あちらこちらから「ブラボー!」が沸き上がる。
思わずエルヴィンも 腹の底から「ブラーヴォ!」と叫び、拳を突き上げた。
いつまでも この余韻に浸っていたい。
そんな気持ちの中、ふと美しい少女の面影を思い出し、一階の客席に目をやった。
………。
エルヴィンはハンジを先に帰し、観客が一人また一人と家路に就くのを静かに待った。
頃合いを見計らい、一階のその席へ向かう。
そこには具合が悪そうに目を閉じているマヤの母親と、心配そうに寄り添うマヤがいた。
「いかがなさいましたか」
エルヴィンは、静かに声をかけた。
顔を上げたマヤは、エルヴィンを見て軽く驚く。
「あ、あなたは さっきの…」
「お困りのようだが」
「はい…。母が、軽く目眩がすると言いまして…」
「それは いけないね」
エルヴィンは膝をついた。
「バックヤードに知り合いがいますので、休憩室まで お連れしましょう」
マヤの母親に肩を貸そうとしたがふらついたので、承諾を得てから横抱きにする。
バックヤードに向かって歩き出すエルヴィンのあとを、マヤが不安そうに従う。
レセプショニストに声をかけしばらく待つと、支配人が飛んできた。
「スミス様!」
「このご婦人の気分が優れないんだ。少し休ませてもらえないだろうか」
「どうぞ、こちらへ」
支配人に案内され、小さな控室に入った。ソファに、マヤの母親をそっと横たえる。
「ご気分はいかがですか?」
「……はい、随分と良くなりました。ありがとうございます」
顔を赤らめ礼を言うその様子は娘のマヤとよく似ているなと、エルヴィンは思った。