第10章 刺激
リヴァイと二人きりのエレベーターの中で、マヤは強い視線を感じていた。
……ダメだ、リヴァイさんの方を見ちゃダメだ…!
マヤは そう思って身を縮こめていた。
「……マヤ…」
リヴァイの声は、わずかに掠れていた。
名を呼ばれ 反射的に振り向くと、近い距離にリヴァイの顔があった。
「………!」
次の瞬間、リヴァイはマヤを覆うように壁に手をついた。
突然の出来事に、マヤの心臓はバクバクして飛び出しそうだ。
「リヴァイさん…?」
すぐそこにリヴァイの顔がある。切なげに揺れている切れ長の瞳は、深い夜の色をしていた。
ふわっと石けんの香りが、リヴァイの逞しい腕に閉じこめられてしまったマヤの鼻腔をくすぐる。
「……マヤ…」
リヴァイは再び名前を呼びながら、左手でマヤの頬に軽くふれたあと髪を梳き始めた。
「……あ…」
マヤは恥ずかしくて どうしたらいいかわからず、自分の髪を愛おしそうに梳くリヴァイを見ていた。
……リヴァイさん どうしてそんな顔をして髪にふれるの?
私… 私…、このまま どうにかなってしまいそう…。
マヤの躰は 胸の奥からこみ上げる激情に震える。リヴァイの熱を帯びた視線に囚われ、顔は上気し、瞳いっぱいの涙がこぼれ落ちんばかりに溜まっていく。
マヤが涙ぐんでいるのに気づいたリヴァイは、マヤの髪を耳にかけて、すっと体を離した。
……と同時に エレベーターは地下駐車場に到着した。
エレベーターから出たものの 立ちすくんでいるマヤの手を取り、リヴァイは車まで歩き始める。
ポルシェのドアを開けると、マヤを助手席に押しこめた。
そして運転席に座ると、発進する前に ぼそっと言った。
「悪ぃ、ガキには刺激が強すぎたな」