第10章 刺激
マヤは頭の中で、ぐるぐると考えを巡らせていた。
リヴァイさんに お礼をしてしまったら、もう会えなくなるのではないか。「暇つぶし」で会いに来てくれていたのも、もしかしたら お礼をさせる日までの「暇つぶし」だったのかも…。そんな考えが浮かんでは消える。
……悩んでいても仕方がない。思い切って訊いてみよう。
そう思って マヤがリヴァイに声をかけたとき、ちょうどそれは聞こえてきた。
「リヴァイさ…」
「……やぁっ、あぁ…んっ」
……何!?
「あん…、ナオキ好きっ!」
……ナオキって誰!?
マヤとリヴァイが座っているベンチの後ろにある木の陰で、抱き合っている男女がいたらしい。
姿は見えないが、段々と抱擁とキスが激しくなっていく様子が手に取るようにわかる。
マヤは恐る恐るリヴァイの方を見た。いつも無表情なリヴァイだが、いつもより微妙な雰囲気の無表情をしている… 気がする。
リヴァイとマヤは、お互い声を発することのできないまま見つめ合う。
「あぁ…んっ」
マヤは、リヴァイの視線と見知らぬ男女の息遣いに耐えられなくなって、
「……私 帰らなくちゃ」
と、ベンチから立ち上がって歩き出した。
すぐに追いかけてきて隣を歩くリヴァイの顔を、マヤは恥ずかしくて見ることができない。
エレベーターを待っているときに、やっと声を出すことができた。
「びっくりしちゃった…。人がいるなんて思いませんでしたよ…」
「……そうだな」
……気まずい。
あのカップルのせいで リヴァイさんと私の間に変な空気が流れてるじゃん。
マヤは嫌な気分のまま、来たエレベーターに乗りこんだ。
エレベーターが降下し始める。他に乗っている人はいない。
マヤは、行きのエレベーターで、視線を感じて振り向くとリヴァイの顔が近くてドキドキしたことを思い出した。
……やだ、ドキドキする。それに… なんだか視線を感じる…!