第10章 刺激
甘く幸せなときは、終わりを告げた。リヴァイが会計を済ませ、マヤは ごちそうさまでしたと頭を下げた。
エレベーターにまっすぐ向かいながら、マヤは このまま帰るのを惜しく感じた。
……リヴァイさんと もうちょっと一緒にいたいな…。
エレベーターホールに着き、エレベーターを待っているときに屋上庭園の案内に気がついた。
「リヴァイさん 屋上庭園だって! 行きませんか?」
「お前、時間はいいのか?」
「はい、大丈夫です」
二人は急遽、行き先を地下駐車場から屋上庭園に変えた。
「わぁ…!」
エレベーターを降り、眼前に広がる景色にマヤは歓声を上げた。
「見てください あの木! ちょっとした森みたいになってますね」
「あっ、リヴァイさん見て! 小川もあります」
「……確かに 結構本格的だな」
二人は板張りの遊歩道を、ゆっくり歩いた。大きなシマトネリコの枝には鳥が羽を休め、チュクチュクとさえずっている。
遊歩道の行き着いた先は 海を見渡せる小さな展望台になっていた。展望台には コイン式の観光双眼望遠鏡二台とベンチが設置してあった。ベンチにはすでにカップルが座っている。屋上庭園に上がってきた人は皆、この展望台が目的なのか、狭い所に結構な人数が立っている。
リヴァイとマヤは目を見合わせて、すぐにきびすを返した。
「海は、さっきお店から充分楽しめたから」
そう言いながらマヤは、小規模な森に入っていく。
森の中にもベンチが幾つか設置してある。どのベンチも誰かしら座っていたが、やっと遊歩道の突き当りにあるベンチが空いているのを見つけた。
「あそこ 座りましょ!」
座って一息ついてから、マヤは リヴァイの目をまっすぐ見てお礼を言った。
「リヴァイさん、今日は素敵な所に連れてきてくださって ありがとうございます」
「……あぁ。気に入ったのなら何よりだ」
「あっ でも私 女除けですから、ちゃんと役目を果たした私に リヴァイさんがお礼を言うべきでは…?」
「何言ってる。もともとマヤが俺に礼をするんだったろ」
「あはは…、そうでしたね」
マヤは先ほどから、あることが頭に浮かんでいた。
……それは「お礼」はした。だからもう、この関係は終わるのか…ということだ。