第9章 紅茶
海を見ると、白く大きなクルーズ船が優雅に浮かんでいた。陽の光が波間に反射して、キラキラしている。
「海を見るの 久しぶりだな…」
マヤはつぶやいた。
予備校には通っていないマヤだが、今年の夏休みは受験生ということもあって特別夏期講習だけ受講した。授業は毎日おこなわれたため、毎年両親と行っている旅行も今年は行っていない。
マヤは、海からリヴァイへ視線を移した。
相変わらず眉間に皺が寄り 眼光鋭く海を見つめるリヴァイの横顔に、マヤは胸の高鳴りを感じる。
……あぁ なんてかっこいいんだろう。ずっと見ていたい。一緒にいられるなんて夢みたい!
リヴァイに見惚れていたマヤは、ふいに とてつもない質量の視線を感じ悪寒が走った。
……何っ?
周囲を見まわして、とてつもない質量の視線の発信先が一つではないことを知った。
店内のすべての女性…お客も 店員も…が、リヴァイに熱いまなざしを向けていた。
……ちょっと! 何 この状況!
「リヴァイさん!」
「なんだ」
「……見られてます」
「あ?」
「だから…、みーんなリヴァイさんを見てます!」
「あぁ… いつものことだ」
「こ、怖いです! なんか背中、いや全身にグサグサ突き刺さってきますよ…」
……リヴァイさんに熱視線を送っている女の人はみんな、一緒にいる私をなんなのあの子!?と思っているに違いない。怖いよぉぉぉ。
「リヴァイさん、なんでそんな落ち着いてるんですか!」
「いつものことだって言ってんだろ。まぁ今日は、お前がいるから気が楽だしな」
「ん? どういうことですか?」
「一人でいると 際限なく声をかけてきやがる。でもお前がいたら、さすがに遠巻きにして見てるだけだろ」
「……はぁ、なるほど…」
「そのために お前を連れてきた」
「え!?」
「マヤ、お前は女除けだ」
「もしかして お礼ってこれですか?」
「そうだ。しっかり励め」