第9章 紅茶
……気が進まないが、まぁいいか。俺がそう思ったときDJが、とんでもないことをほざくのが聞こえた。
「みよぴょんさんのリクエストは『跪け豚共が』のカップリングナンバーですね」
オイオイオイオイ 待て待て。
「では No Nameで『夜の牙』」
ギュイーーーーーーン!!!
待てって言ってんだろがっ! 俺は心の中で叫ぶ。なんで豚じゃなくて牙なんだよ。牙はヤバい。今 マヤと聴きたくない。聴かせたくない。
FM局を変えるか消すかしたいが、マヤが聴きたいと言っていたから、ここで何かアクションを起こすのは不自然だ。
………躾に一番効くのは痛みだ 躾けてやる、来い!
………さっさと脱げよ グズ野郎
ギュイギュイーーーーーーン!!!
………お仕置きの時間だ
………たっぷり可愛がってやる
牙は、ヘヴィーなリフの合間にミュートを取って作ったブレイクに俺が色々叫ぶだけの、歌というよりは単なるセリフの垂れ流しだ。
こんなもん公共の電波で流すな! リクエストなんかするな クソがっ!
マヤの方をうかがうと、口を半開きにして固まっている。
ギュイギュイギュイーーーーーーン!!!
………そんなに俺が欲しいのか
………自分の口で言ってみろよ
頼む 早く終わってくれ! 俺の心の叫びも虚しく、延々と牙の俺の声が車内に響く。一体どういう罰ゲームなんだ、これは。
………今夜は寝かせねぇ 覚悟しろ!
これで終わりだ。あとはアウトロが結構長く余韻を残すようにつづくのみ。やっと罰ゲームのような時間が過ぎ去ったことに安堵し、今一度マヤを見ると、埴輪みたいな顔してやがる。
「おい、大丈夫か」
「はは…。斬新な曲ですね…」
「顔がほうけているが」
「モーツァルトのレック・ミッヒ・イム・アルシュを初めて聴いたとき以来の衝撃です」
「……そうか」
偉大な音楽家を引き合いに出されて、俺は複雑な気分だった。