第9章 紅茶
顔を強張らせているマヤに気づいたリヴァイが訊く。
「どうした。気分でも悪いのか」
「……いえ 違うんです。あの、なんか緊張しちゃって…」
「1時間ほどのドライブだ。気を楽にしろ」
「どこに行くんですか?」
「横浜だ」
「え…、あの… 夜には家に帰りたいんですけど」
「心配ない。行って紅茶飲んで すぐ帰る」
「……そうですか…」
楽にしろと言われても緊張するよ… とマヤは思ったが、落ち着くために自分の置かれた状況を知ろうと車内をそっと見まわした。
ショールームに展示してある新車みたいに、何も無駄なものが置いていない。おまけに塵ひとつ落ちていない。
緊張して耳に入ってきていなかった音楽にも集中してみる。
詳しくないマヤでも聴いたことのある気がする、多分有名な海外のハードロックだ。
難しい顔をして曲を聴いているマヤをチラ見して、リヴァイはFMに切り替えた。
「悪ぃ。趣味じゃねぇもん聴かされても困るだろ」
「そんなことないですよ」
流れてきたFMからは鈴のような声の女性DJが、半身浴について熱く語っていた。
どうやら お題が「秋の夜長の過ごし方」みたいだ。
しばらく耳を傾けていたら、鈴声DJが笑いながら楽しそうに。
「でも私は秋の夜長は、やっぱお酒が一番かな~。ちびちびグイっと最高ですよね~!」
カラカラと笑ったあとにつづける。
「……では え~、次のリクエストは船橋市にお住まいのラジオネームみよぴょんさんから、No Nameに頂きました! No Nameといえば事務所を移籍しましたね。彼らの…」
「あ! これ 友達がこないだ言ってましたよ。No Nameの電撃移籍」
マヤは、リヴァイに話を振った。
「……そうか」
「友達がすごいファンで。あっ、リヴァイさんに初めて会った日のLIVEに一緒に行った子ですよ」
「お前はファンじゃないんだったな…」
「ええ まぁ…」
「変えるか…」
リヴァイはFM局を変えようと、カーオーディオに右手を伸ばした。
「変えないで!」
「……あ?」
「私 No Nameの曲、ちゃんと聴いたこと一回もないんで聴いてみたいです」
「………」