第1章 No Name
駅に着くと、エミは改札を出たところで待っていた。
ここから会場までは歩いて10分ほど。エミが、いつもより速いペースで歩くのに必死でついていく。
「待ってエミ、そんな急がなくてもいいんじゃない?」
「マヤは甘い!」
……エミの言うとおり、私は甘かった。
会場に到着すると、すでに何十人もの女子がたむろしていた。
No Nameと書いてあるグッズを手に持っている人もいる。
グッズを持つくらいは理解できるが、自分たちの頭にぐるぐる包帯を巻いている人は一体何なんだろう、ミイラみたいだな…。熱狂的なファンって怖いと、マヤは思った。
エミは戸口に近いところに、わずかな空きスペースを見つけ、そこに座りこむ。
マヤは、ため息をついて隣に座った。今は9時15分、これからLIVE開場の17時まで、ここで待機。
………とんでもないことを引き受けてしまった。