第7章 不在
エミほどではないが、恵子も No Nameが好きだ。でも恵子にはバイト先に彼氏がいて、この間のLIVEのときは、彼氏の誕生日だったらしい。そうでなかったらエミはマヤではなく、恵子を誘っていただろう。
キャアキャア盛り上がる二人をニコニコして眺めていると、エミがマヤに話を振った。
「マヤも スミスプロモーションは知ってるよね?」
「……ううん、ちょっと わからないかな」
「知ってるって! KRH104の事務所だよ」
「あぁ! うん KRH104は知ってる」
「KRH104」は、数年前から人気のあるアイドルグループだ。マヤが中学のときに初めてつきあった彼氏も、KRH104のファンだったなと思い出す。
「中学のときにつきあってた人が、ミカサ推しだった」
「あ~ 大体ミカサかアニだよね、人気あるのって」
「え? 私の彼はサシャが好きだよ。ほら、最近大食い番組に出てるじゃん。美味しそうに食べてるとこが可愛いって言ってた」
「ところでさ…」
エミが真剣な顔で言う。
「KRH104のKRHって何?」
「そう言われたらそうだよね」
マヤは、とりあえず思いつく言葉を並べてみた。
「栗きんとん、ラスク、ホットケーキ?」
恵子もつづく。
「じゃあ私は きゅうり、レンコン、ほうれん草!」
スマホで検索したエミが、声高らかに宣言した。
「二人とも外れ! 訓練兵だって!」
「「訓練兵??」」
マヤと恵子は、声を合わせて驚いた。
「……意味不だね」
「それに 104ってのもイミフだ。104人もいないし」
「「「変なの!」」」
三人は、顔を見合わせて笑った。