第16章 眠らない街
「なんのことか… わかんねぇな」
「オイオイ…、オレはお前をいっちゃん最初に見たときから気づいてたぜ?」
「ハッ! ご親切に今まで黙ってたってか?」
「いいや、お前が話してくれるのを待ってたんだがな。なにしろオレは どうしようもねぇ恥ずかしがり屋さんだからよ、他人の悩みに口を出すってのは拷問みてぇなもんだ」
スティーヴンはそこまで一気に言うと、ニヤッと笑った。
「……なら、黙ってろ」
俺はそう返したが、気づけば… ポツリポツリとマヤのことをヤツに話していた。
時折 ほぉとかへぇとか間抜けな相槌を打ちながら、スティーヴンは最後まで聞いてくれた。
俺がすべてを話し終わってから、何分経っただろうか。
スティーヴンはグラスを片手に目を伏せている。
……おいおい…、寝てんじゃねぇだろうな。
馬鹿正直に打ち明けた俺が、恥ずかしいだろうが!
気の遠くなるような長い時間に感じたが、やっとヤツは身じろぎした。
そして ゆっくり俺の方を見た。
「……で、お前は その娘を忘れなくちゃいけねぇのに忘れられねぇ、母ちゃん助けて~ってなってる訳か」
「誰が 母ちゃん助けてだ…」
スティーヴンは、抗議する俺をシカトしやがった。
「オレには何がそんなにお前を悩ませてんのか、全くわかんねぇな」
「………」
「何がネックなんだ、年の差か?」
「……それもある…」
「オレが今つきあってる女、何歳か知ってるか?」
「いや」
「31歳だ」
「てめぇは、いくつなんだ」
「71歳だぜぇ!」
「おいおい、40歳差かよ。ジジィのくせに張り切りすぎなんじゃねぇか」
「言ってくれるじゃねぇか。リヴァイ、女を好きになるのに年齢なんて関係ねぇんだぜ」
俺は黙って、エクストラ・ドライ・マティーニを頼んだ。
「リヴァイ、お前は… 女を好きになったことがねぇんだな」
「……そうかもしれねぇ…」
「あのなぁ! 人ってのは相手の目を見て 言葉でハッキリ言わねぇと、何一つ伝わらねぇんだぜ? その娘に胸の内全部、曝け出せ。簡単なことだ」
……それができたら… 苦労しねぇよ…。
眉間に皺を寄せ 酒を飲むだけの俺に、スティーヴンは急に怖い顔をして低い声を出した。
「リヴァイ…。お前 次のステージ出たあと、そのまま日本に帰れ」