第16章 眠らない街
「……追加公演があるって聞いたが?」
「そうだ、追加公演はある。だがよ、お前みたいなシケた面してるヤツは、もう要らねぇんだよ」
「……俺は クビって訳か…」
「そう クビだ、Little boy!」
ヤツは俺にチビ坊主と言いながら、グイっとギムレットを飲み干した。
「……ってかなぁ! オレんとこをクビとかそうじゃなくってよ…」
スティーヴンの目が据わっていやがる。
「お前はもう、ロックなんか… やめちまえ!」
「あ?」
「好きな女の一人や二人、モノにできねぇ情けねぇフニャチン野郎はなぁ! ロックやる資格なんてねぇんだぜ?」
「………」
痛いところを突かれて、俺はぐうの音も出ない。
スティーヴンは しばらく黙りこんでいたと思ったら、急にニカッと笑って俺の肩を思いきり叩いた。
「Go for broke!」
当たって砕けろ!と発破をかけられた俺は、ヤツの目をグッと見据えマティーニを飲み干した。
俺たちは そのまま朝まで飲んだ。
スティーヴンは最後に俺に、ロングアイランド・アイスティーを奢ってくれた。
「餞別にしちゃ、可愛い酒を選んでくれたな」
「紅茶を一滴も使ってねぇのに紅茶の味がする酒なんて、素直になれねぇ ひねくれ者のお前にピッタリだからよ…」
スティーヴンは、顔を皺くちゃにして笑った。
「スティーヴン…、てめぇ見てると思い出す奴がいる」
「へぇ…、オレに似て よっぽどイイ男なんだろうな?」
「さぁな…。そいつも俺をチビチビって言いやがった。ろくでもない奴だったのは間違いねぇ」
「リヴァイ、そいつに相談すべきだったな?」
「とっくの昔に くたばっちまったよ、そいつは…」
俺はケニーの死に顔を思い出しながら、ロングアイランド・アイスティーをゆっくり口に含んだ。
「スティーヴン…、てめぇは長生きしろよ」
ボディガードのトムと一緒に出ていくヤツの背に、俺はつぶやいた。
しばらくして俺が席を立つとき、グラスを黙々と磨き上げていたバーテンダーが優しい表情を見せた。
「ロングアイランド・アイスティーのカクテル言葉は “希望” でございます」
「……そうか。ありがとう」
……スティーヴンの野郎、粋な真似しやがって…!
俺は、日本に電話した。
「……エルヴィン。俺の覚悟を聞きやがれ。俺は…!」