第16章 眠らない街
「でね、このハシビロコウは全然動かなくて じーっと立ってるだけなんだけど、大好きな飼育員さんが来るとお辞儀するんだ!」
「お辞儀?」
「うん、ハシビロコウのお辞儀は求愛行動なんだって」
……それが どうしたってんだ。
「見かけだけでなく、そんな健気なところもリヴァイみたいだよねぇ!」
「あ? それのどこが俺に似てるんだ?」
「リヴァイは自分の好きな子には、きっとこのハシビロコウみたいに 一途に振る舞うよ」
「ハッ、好きなヤツなんていねぇよ!」
そう言う俺を無視してクソメガネの野郎は、その変な鳥の画像を見ながら、可愛いねぇ 萌えるぜ!とか喚いてやがる。
LIVE前の集中しないといけない大事な時間に、訳のわからない鳥に似ているとか言われた俺は、最大限に苛立っていた。
開演を遅らせていたが、時間も押しているから これ以上は無理だとモブリットが泣きついてきやがる。
仕方がねぇ。
俺は包帯を巻き、完全に気分がノらないままステージに立った。
定位置についた俺たちに、スポットライトが当たる。
「……跪け、豚共が!!!」
「「「キャァァァァァァ!!!」」」
いつもの女どもの黄色い声だ。
……チッ、頭のてっぺんから声が出てやがる。
そんなことを思いながら、
~切り裂いて見せてやる~
おっぱじめようとした俺の視界の端に映った何かに、強烈な違和感を感じた。
……あ?
今まさに始まろうとしているステージの俺たちには見向きもせずに出ていこうとしている、ひとりの女。
大体 俺たちのLIVEに来る女は、年中マイクロミニかホットパンツだ。
が、今出ていこうとしている女は、紺色のロングスカートだった。
俺の方を見向きもしないその背中には、ダークブラウンの長い髪が揺れている。
俺は何故か、目を離せなかった。
女が扉に手をかけた。
……本当に出ていきやがる!
俺がそう思ったそのとき、女は一瞬振り向いた。
俺にはなんの興味も持っていないその顔を、俺は苛立ちとともに胸に刻んだ。