第15章 氷月
「風丘さん、君の気持ちは よくわかったよ。仕事柄、水商売の世界には多少の伝手もあるから私が捜してあげよう」
「ほんとですか!」
「あぁ、その代わり君はもう捜さないこと。また危ない目に遭ったら大変だからね」
「はい…、ありがとうございます!」
「…で、その彼の名前はなんだい?」
「リヴァイさんです」
「へぇ?」
……私は恐らく今まで生きてきた中で一番間抜けな声を出してしまった。
「今… リヴァイと言ったかい?」
「……はい、言いましたけど?」
「そのリヴァイは本名なのか? ホストだったら、源氏名かもしれない」
「あ…」
風丘マヤは少し考えていたが、眉根を寄せた。
「わかりません…」
……偶然、同じ名前なのかもしれない。その可能性は捨てきれない。
そう私が分析していると、彼女がつづけた。
「苗字は、アッカーマンですけど…。でも そうですよね。連絡先もお店も教えてもらってないんだもの。源氏名どころか偽名なのかも」
……オイオイオイオイ 待て待て。
私は思わずリヴァイの常套句を、心の中で再生してしまった。
何がどうなって、リヴァイはホストということになっているのだ。
「彼は、本当にホストなのかい?」
「……と思いますけど?」
風丘マヤは、きょとんとしている。
……いや 1/10,000,000,000くらいの確率で、苗字名前ともに偶然同じヤツなのかもしれない。
「その… リヴァイの特徴を教えてくれないか? 捜すのに必要だからね」
「はい。えっと… 髪は黒くてサラサラです。で… こう目つきが鋭くて かっこいいんです! それから…」
……嬉しそうに話す彼女の声を聞きながら、ほぼ確信する。
間違いない、リヴァイだ。
「あっ そうだ、写真があります!」
風丘マヤは鞄からスマホを取り出し、操作してから くいっと私の方へ突き出した。
……なんだ? ケーキの写真だが…。
眉間に皺を寄せた私を見て彼女はあっと小さくつぶやき、スマホを再操作した。
拡大された画面には、ケーキの奥でしかめ面をしているリヴァイが座っていた。
私がどう返事しようか考えあぐねていると、彼女はさらに言った。
「あ! お店のママさんと用心棒らしき人にも会いましたよ?」
………。