第15章 氷月
店のママと用心棒…。
ミケの無駄にデカい図体を思い出し、思わず口角が上がる。
……しかし困ったな。捜すと言ってしまった手前、今更 手を引けない。
「……リヴァイ・アッカーマンだね。そして店のママがハンジといって背の高い眼鏡の女性、大きな用心棒がミケか。わかった。捜してみよう」
私はそう風丘マヤに約束した。
そして連絡先を交換し、彼女を自宅まで送り届けた。
家から出てきた風丘マヤの母親は、事情がのみこめずに目を白黒させていた。
「街中で偶然お嬢さんと再会し、私が強引に お茶に誘いました。申し訳ない」
私がそう説明すると、母親は それはそれは…と笑った。
最後に見た風丘マヤは、私を信頼しきった顔で笑い、手を振っていた。
帰りの社用車の中で、私は目をつぶる。
……私を信じ すべてを託したが、風丘マヤよ、私 エルヴィン・スミスこそが、リヴァイを君から遠ざけた張本人なんだ。
あのときは何がなんでも、リヴァイと引き離さないといけないと思っていた。
恋煩いで仕事が手につかないリヴァイを、正気に返さないといけなかったからだ。
だが今日の彼女の様子を見ると、相思相愛ではないか…。
それなら また話は別だが…。
しかし、もう手遅れかもしれない。
Sin Cityベガスで、リヴァイは今、何を考え 誰を想っているのだろうか。
彼女を忘れろと命じたのは、私だ。
……リヴァイよ。忘れることはできたか?
リヴァイが彼女への想いを吹っきることができ、仕事に精を出せれば、それで何も言うことはないはずだ。
風丘マヤが悲しもうが苦しもうが、私には関係ない。
それなのに先ほどから、チクリチクリと胸が痛むのは何故だ。
彼女の涙を知らなければ…。
……いいや、非情な采配には わずかな同情も許されない。
どうしたエルヴィン・スミス、しっかりしないか、お前らしくないぞ。
私は自戒し、自分自身に活を入れた。