第15章 氷月
今、風丘マヤの表情はうかがい知れない。うつむいたその顔は、長い絹のような髪に覆われ、全く見えない。
よく見ると、肩が小刻みに震えている。
……泣いているのか…。
可哀想に思ったが、先ほど突きつけた言葉は間違ってはいない。
……しかし リヴァイでないとはな。さすがの私も予想外だった。
リヴァイにとったら、これで良かったのではないか。半ば強引に渡米させたが、どの道リヴァイの恋は叶わなかったのだ。
そんなことを考えていると、風丘マヤの大声で我に返った。
「嘘です!」
「なんだ、どうした?」
「区切りつけたいとか お別れしたいとか お礼を言いたいとか…、そんなの全部全部嘘です!」
「ただ逢いたいだけなんです。逢いたいの…、一目でいいから… もう一度逢いたいの! 逢いたいの! 逢いたいの!」
そう叫んだあと、わんわん泣き出した。
私は彼女にハンカチを手渡すと、黙って彼女が落ち着くまで待った。
どれくらい彼女は泣いただろうか。私のハンカチは すでに役に立たないくらいグチョグチョになっている。
「……ごめんなさい…。取り乱してしまって…」
そして手にしたハンカチを見て、済まなさそうにつぶやいた。
「洗って返します… 本当に ごめんなさい…」
「いや いいんだ。君の気持ちは、よくわかったよ」
まだしゃくり上げている彼女を見て、私は自分が若かりしころの熱く、恋しい人だけを想う無垢な気持ちを思い出した。
今は親友の妻の座に収まっている愛おしい女の顔が浮かぶ。
……マリー…。
……そうだ。傷ついたってかまわないんだ。
逢いたいんだ。ただ それだけ。
逢ったあとのことなんて、考えもしない。
愚かな行為だ。でもそれこそが、人を好きになるということ。
この娘と知り合ったのも、何かの縁だ。
手を貸してやろうではないか。