第15章 氷月
風丘マヤはじっとティーカップを見ながら逡巡していたようだったが、心を決めた様子で私の顔を見た。
「スミスさん 私…、この間 嘘をつきました」
「なんだい?」
「恋をしているかと聞かれて、してないって言ったんですけど、それ嘘です」
「………」
「好きな人がいます…。いや いました…」
「いました?」
「……はい。いたんですけど失恋してしまって…」
膝の上でぎゅっと握った手を見て黙ってしまった風丘マヤの顔を見ながら、辛抱強く彼女が再び話し始めるのを待った。
「……それで、気持ちにちゃんと片をつけようと… その人にちゃんと さよならしようと… 思って…」
うつむきながら話していた彼女は ゆっくり顔を上げながらつづける。
「少しの間だったけど一緒にいられて楽しかったから ありがとうって言おうと思って、それでその人を捜していました」
「捜す?」
「はい。ホストなんですけど、どこのお店で働いてるか知らないから、手始めに歌舞伎町で捜そうと思いました」
……ホスト? 彼女の相手はリヴァイじゃないのか!?
私は思ってもいなかった展開に、咄嗟に言葉を継げなかった。
「……そうだったのか。でも君がいた所は、すぐ先にラブホテルがたくさん建っているし近づかない方がいいと思うがね。闇雲に行動しない方がいい」
「そうですよね… でも… お別れを ちゃんとしたいんです」
「全く連絡先を知らないのかい?」
「はい、やっぱり捜すしかないんです!」
私は彼女に現実を突きつけるのは酷だとは思ったが、彼女のためだと考え直した。
「風丘さん、そのホストの彼が君に連絡先も勤めている店も教えなかったのは、君に来てほしくないからじゃないかな」
「………!」
……頼む、そんな顔をしないでくれ。君の悲しむ顔は見たくない。
だが、今告げたことは恐らく真実であろう。
もし、その彼の店を探し当てることができ彼に会えても、傷つくのは君だ。
「そ… んな…」
「私だって、こんなことは言いたくないが、君のためだと信じ、あえて言おう。君は彼に会っても傷つくだけだ。“お別れ” なんてしなくてもいい。このまま気持ちにふたをして、時が経つのを待った方がいい」
風丘マヤは、蝋のように顔を白くして黙ってしまった。