第15章 氷月
「スミス社長、イケメンなんだよね?」
「うん、金髪碧眼高身長」
「その上、マヤのお母さんを助けるなんて どれだけヒーローなの! ああぁ~ 私も会いたかったなぁ!」
エミは目をキラキラさせている。恵子がすかさず突っこむ。
「エミは、クラシックなんか聴かないから無理無理!」
エミは恵子をキッと見ると、スミス社長への賛美をつづけた。
「No Nameのニューアルバムが発売延期って聞いたときには そりゃもうガッカリしたけど、その理由が海外進出って! もう ぶっ飛んだわ。移籍してから そんな時間経ってないもんね。ああぁ~ イケメンでヤリ手の若社長だなんて最高!」
恵子が、
「エミ… あんたもう、No Nameよりスミス社長が好きなんじゃないの?」
と、ニヤリと笑った。
エミは、マヤに訊く。
「ねぇ マヤ。スミス社長に惚れなかったの?」
マヤが答えるより先に、恵子が割りこむ。
「馬鹿ね、もう忘れたの? マヤには図書館の彼がいるじゃない」
「あぁ! そうだったね。マヤ、図書館の彼とはどうなってる? 少しは進展した?」
……図書館の彼。マヤの胸はチクっと痛んだ。
マヤは、もう自分をこれ以上傷つけないように、リヴァイへの想いは氷漬けにしたはずだった。
どんな鋭いアイスピックでも割れないくらいのガチガチの氷で、胸の奥底に閉じこめた。
だからもうリヴァイの話題が出ても、何も感じないはずなのに。
……なんて脆いんだろう、私の心は。
でも… こんなことでは駄目だ。こんなことで傷ついては駄目だ。
ほら笑って、笑うのよ マヤ。
「……図書館の人は、もう来なくなったの。なんか一瞬の恋だったわ。あっ、恋でもないか~ あはは」
「そっかぁ、残念だったね。でもほら! なんでも “縁” だからさ、その人とはそれだけの縁だったってことだよ!」
エミが励ましてくれる。恵子も、
「マヤは東聡大で、ハイスペックな彼氏と出会えるって!」
と、ニカッと笑う。
「ありがとう」
マヤは そう言って笑った。
……笑えた、私…。泣き笑いだけど…。