第15章 氷月
12月も、半分ほど過ぎた。
来週にはクリスマスとあって、今マヤがエミと恵子と一緒に来ているパンケーキの美味しいカフェも、ずっと古今東西のクリスマスソングを流している。
「クリスマスがやってくる」が終わったと思ったら、鉄板の定番ソングが流れてきた。
~きっと君は来ない~
……リヴァイさんが駅にも図書館にも来なくなってから、一体どれくらいの時が経つのだろう。
マヤは ぼんやりと、そう思った。
「……マヤ! マヤってば!」
「……あっ ごめん、何?」
「ほら、スミス社長の話だよ。今年の一番のサプライズニュースは マヤがスミス社長に会ったことじゃない?って盛り上がってたのに~」
「あぁ うん、そうだね」
……そうだ。「ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団」の来日公演でスミスプロモーションの社長さんに会ったんだ。そしてそのことを月曜日、学校でエミたちに話して…、リヴァイさんにも話そうと思っていたのに、リヴァイさんはその日を境に ぱったりと姿を見せなくなったんだっけ…。
もう一か月以上になる。
最初は、そりゃ来れない日もあるよね… 毎日毎日来る方が変だよ…とか思った。それに前にも一週間来なかったときもあったじゃない… そう自分に言い聞かせた。
一週間が過ぎるころには、良かったじゃん リヴァイさん お仕事が忙しいんだって思ったり、もしかしたら風邪でも引いて寝こんでるのかな?と心配したり…。
不安な気持ちをごまかすために、彼が現れない理由を色々こじつけていた。
……でも二週間を過ぎた辺りで「彼はもう来ない」と思い始めた。思いたくなかったけれど、どこにも彼はいない。
喪失感で、日常の景色が音と色を無くした。
電車に乗っていても学校にいても、周りには幾人もの人が存在しているのに、まるで誰もいないように静かだ。
世の中には こんなにもたくさんの人がいるのに、たったひとりの人に会えないだけで、私の世界は意味を失った。
どれだけ泣いただろう。どれだけ叫んだだろう。
でも… 何をしても、どう足掻いても、彼はいない。
リヴァイが現れなくなってから一か月を過ぎるころには、マヤの心は凍りついていた。
氷月… そう12月の異名のように。