第14章 命令
エルヴィンは机の引き出しから一枚の紙切れを取り出し、机上に広げた。
「いいや、関係はある。業務に支障が出ている限り、見過ごす訳にはいかない」
その紙切れを、俺は苦々しく見下ろした。
「……シュレッダーにかけたはずだが…」
「証拠物件Aさ、リヴァイ!」
ソファに座っているハンジの方を反射的に振り向くと、眼鏡の奥がキラリと光っていた。
……クソメガネがっ! モブリットの野郎もだ、余計な真似しやがって!
「曲が書けないそうだな」
「………」
「アルバムの発売延期は各方面に通達済みだ。表向きはエアロスミスのオープニングアクトを成功させることが、トッププライオリティであるためとしてある」
「……が 現実にはリヴァイ、お前が一人の女のせいで自分を見失ってしまっているからに他ならない」
……俺は何も言い返すことができず、ただギリリと奥歯を噛みしめることで、精一杯の抵抗を見せた。
エルヴィンは諭すようにつづける。
「今のままの状況がつづくはずもない。“なんでもない” 女に時間を取られ、曲も書けず仕事にならない。お前には何が見えているんだ。この先、どうするつもりなんだ」
……だから わかんねぇっつってんだろ! 俺は心ではそう叫んだが、黙ってエルヴィンの次の言葉を待った。
「そもそも渡米する前に風丘マヤに会って、何を話すつもりだったんだ」
「……それは…、仕事でしばらく来れない… と…」
「何故 “なんでもない” 女に、そのような言い訳をする必要がある?」
「………」
「女々しいな、リヴァイ」
俺は情けないことに先ほどから、やつを睨み返すことしかできない。
「はっきり言葉にしてやろう。お前は、風丘マヤを愛しているのか?」