第14章 命令
「19時のJAL便だ、遅れるなよ」
エルヴィンのその声に俺は、今から帰って荷造りしてもマヤに会う時間はあるな…と 無意識のうちに壁の時計を見たらしい。
「時間が気になるか、リヴァイ」
エルヴィンの方に顔を向けると、訳知り顔がそこにあった。
……なんだ?
違和感を感じたが、いちいち野郎の顔色などうかがってはいられない。
しかし次の瞬間、エルヴィンの口から放たれた言葉に俺は狼狽した。
「風丘マヤには、もう会うな」
「……なんのことかわかんねぇな」
……チッ、クソメガネとミケの野郎、エルヴィンにチクりやがったな。胸糞悪ぃ。
出ていこうとした俺に、ヤツは追い討ちをかけてきた。
「風丘マヤに会うなと言っている」
「あ? プライベートにまで口出される筋合いはねぇ」
「……リヴァイ、移籍直後に君たちに徹底させたルールを覚えているか」
「ハッ、覚えているも何も くだらねぇ御託を並べやがって」
当時のことを思い出し苛立つ。
移籍に伴い煩わしい手続きをさせられた上に、コンプライアンスの研修だと称し会議室に何日も軟禁させられた。
……そのせいでマヤに一週間も会えなかったんだ、クソがっ!
「No Nameは、その匿名性が鍵を握っている。そうだろう?」
「……あぁ」
……そこに異存はない。
「素性を知る者は配偶者…、もしくはそれに相当する者に限る」
「………」
エルヴィンは、カッと目を見開いた。
「リヴァイ、彼女は お前のなんだ」
……マヤは俺の何? そんなもんわかんねぇよ。
わかっていることは、これまでに出会った女とは違うということだけ。
……顔が見てぇ、声が聞きてぇ ……抱きてぇ。
ただ… それだけでは終わらない。抱いて終わりじゃない気がする。
抱きたいが、抱いて終わりになるならば抱けなくてもいい。
……一緒にいられるだけでいい。
こんな風に感じたことは今までになかったから、これが何かだなんて俺にはわかんねぇ。
「……なんでもねぇ」
俺は、そうとしか答えられなかった。
「そうか。なんでもないのなら、会えなくてもかまわないだろう? 会うな」
「別に俺がどこの誰に会おうが、てめぇに関係ないだろうが」
俺は、自分のこめかみに青すじが立つのを感じた。