第14章 命令
……頭が痛ぇ。
朝から社長室に呼び出された。なんの用なんだ、…ったく。
不満をこめて扉を蹴飛ばして入ると、ミケとハンジも居やがった。
「おい エルヴィン、朝っぱらからなんの用だ」
「来たな」
エルヴィンはそう言って机の上で指を組み、リヴァイを正面から見据えた。
「今夜の便で、ベガスに飛んでもらいたい」
「あ?」
「正確には今夜の便でロスに飛び、ベガス入りは明晩になるがな」
「オイオイオイオイ 待て待て。クソを我慢しすぎて、おかしくなっちまったか」
ハンジが間に入る。
「リヴァイ、これはチャンスだよ」
「何を言ってんのかわかんねぇな、クソメガネ」
「エアロスミスのレジデンシー公演のオープニングアクトに抜擢されたんだよ!」
「……んな訳ねぇだろ。お前ら 今日はエイプリルフールじゃねぇぞ。馬鹿馬鹿しい、もう帰っていいか」
俺は背を向け出ていこうとしたが、すっとミケが扉の前に立ちふさがった。
「邪魔だ、どけ!」
背後からエルヴィンの声が覆いかぶさる。
「リヴァイ、話を聞け」
その有無を言わさぬ声色に、俺は振り向いた。
「……話を聞こう」
エルヴィンは目を閉じ息をふぅっと吐くと、静かに話し始めた。
「パークシアターでおこなわれる エアロスミスのレジデンシーのオープニングアクトに君たちNo Nameが出る。全12公演。海外進出開始の第一歩としては最高だろう?」
「俺だって馬鹿じゃねぇ。いくら日本で多少売れたとしても、そんな簡単にエアロの前座とかヤれるもんじゃねぇだろ、ふざけんな!」
「私をナメてもらっては困るな」
「………!」
リヴァイは眉間の皺を一層深くした。
「てめぇ…、どんな手を使いやがった」
「毎度お馴染みの博打だ。俺は これしか能がないからな」
不敵に笑うエルヴィンの一人称が、私から俺に変わる。
……イカれてやがる。
俺たちをシャーディスのとこから引き抜いたときもそうだ。
海外進出を餌にしやがった。確かにシャーディスの元では、今以上の成果はもう得られそうにない。
ミケの昔馴染みらしいから、俺もハンジもヤツの手に乗っかったふりをしてやったが、その手は俺たちの想像以上にデカかったらしい。
移籍してわずか一か月あまりで、エアロの前座だと?
「まぁ、悪くねぇ話だな」
俺は、ひとまず兜を脱いでやった。