obsidian is gently shines
第14章 baby step
(またか…)
時間になり、当たり前のように訪れた食堂。
そこでエルヴィンが目にしたのは、明らかに攻撃されている娘の姿。
「困ったものだね」
エルヴィンの一歩斜め後ろに付き従うのは、補佐を勤める妻のナナバ。
同じく食堂での光景を目にし、誰に聞かせるともなく呟く。
「………」
ナナバと同じく、反対側で一歩斜め後ろに立つのは、人類最強を長らく保持するリヴァイ。
眉間に深い皺を刻みながら、望まずに渦中の人となってしまったセチアをじっと見る。
(どうする、どうしたらいい…)
今すぐにでも出ていって、この騒動をおさめたい。
それは、父親とすれば至極当たり前の感情。
だが、こと今のエルヴィンは間違いなく"団長"である。
食堂では静かに。
例えそんな一言でも、『親の力で…』『贔屓されている』等と、理不尽な矛先がセチアに向かうのは必至。
ナナバも然り。
役職的にはリヴァイやミケ、ハンジが上ではあるが、事務的に団長の第一補佐を勤め、また精鋭の集まるミケ班においても副官を勤める。
他の者からみれば、限りなく兵団のトップに近い所にいる、権力の塊のような人。
そして何よりセチアの母だ。手を差し伸べればエルヴィンと同様の結果が待っているに違いない。
助けてやりたい。
だが、それができない。
「私なら大丈夫だから」
大丈夫…?
まさか、そんな訳あるはずない。
その証拠に、いつも見せてくれる、可愛らしいとしか言いようのない笑顔…それが今はない。
(尾を引かず、この状況を収める事ができるのは…)
「…リヴァイ、頼む」
絞り出すようにそう口にすると、エルヴィンは覗き込んでいた出入り口から一歩下がった。
「了解だ」
ただ一言を返し、リヴァイは迷うことなく食堂を突っ切っていく。