obsidian is gently shines
第11章 スミス家の日常
朝市に出掛けたナナバを見送り、紅茶を淹れる。
とりあえずは二人分、
自分と、エルヴィンの寝覚め用だ。
こん こん
『………』
案の定、部屋の中からは反応がない。
(やっぱり、これだけじゃ起きないよね)
すぅ、と息を吸い、軽く握った右拳に力を込める。
こん こん
『パパ、起きて』
『…ん………』
『パパ、紅茶の用意できてるよ』
『……むにゃ…』
『パパ?』
『うにゃ……、ぅん……』
『もう…入るよ?入っちゃうからね?』
遠慮がちに開けた扉の向こう、ナナバとセチアが使っているものよりも一回り程大きいベッドでエルヴィンが気持ちよさそうに眠っている。
『わ……、すごい寝相…』
『……ん…、……』
抱きしめた枕に顔を埋め、シーツは器用にまとめ足で挟み、まるで抱き枕を自作したような格好。
『パパ?』
『…もご…もご…』
『ん?何?何言ってるの?』
『……、…ナナバ…』
『パパ、私。ナナバじゃなくてセチアだよ。ほら、起きて!紅茶冷めちゃうよ?』
『………、……して……、………る』
『なに?』
『…ナナバが、ちゅぅしてくれたら、起きる…』
『!!!』
思わず、肩を揺すろうと伸ばしかけた手がとまる。
(なんでこんなコトだけはっきり言うの…!!!)
どう反応するべきか。
いやそもそも、自分が見てよかったのか?
父親のこんな一面を、知ってしまってよかったのか?
(…どう、したら…いいの……)
驚き、困惑、動揺、その他諸々。
兎に角いろいろが混ざりあって、その場に立ち尽くすしかできない。
そんなセチアを知ってか知らずか
エルヴィンはナナバの名を呼びながら、
抱きしめた枕に
ちゅっちゅ ちゅっちゅ
とキスをし出した。