obsidian is gently shines
第11章 スミス家の日常
「重くない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。
モブリットさんも、大丈夫ですか?」
「もうばっちり。視界良好だしね」
徐々に人の減っていく兵舎内を並んで歩く二人。
片方は鼻から上が見えるだけの量の本を抱え、もう片方はやや薄めの本を5冊、大事そうに抱いている。
「それにしても本当にすごい量ですね。
これ全部、分隊長のご希望ですか?」
「うん。
あ、いや、言われたのは3冊だけなんだ。
ただ…」
「ただ?」
「分隊長の悪い癖…うーん、悪くはないかな?きっと好奇心旺盛なせいだと思うんだけど、あの人しょっちゅう調べものとかしてるの、聞いた事ある?」
「存じてます。
兵団内でも抜きん出た頭脳の持ち主だと」
「はは。いい評価をしてもらえているようで嬉しいよ。でね、まぁ調べものなんかをし出すと『あれもほしい』『これもあると助かる』って後からいろいろ出てきて」
ふぅ、と困ったような、それでいてどこか安心したような顔でモブリットが笑う。
「しかもそれが毎回でね。
だから、必要そうなものを先回りで選んで…
なんてしてたら、この量になっちゃって」
「そうだったんですね」
「君が声を掛けてくれたおかげで助かったよ。
本当にありがとう」
「またあればいつでも言ってください」
「ありがとう。
あ、ほら、もうすぐ…」
言われ彼の視線の先を辿っていけば、
"見覚えはあるが見慣れるまではいかない扉"がもうすぐそこに見えていた。