obsidian is gently shines
第11章 スミス家の日常
「ごめんね、帰りがけに」
「いえ、用事もありませんし、お役に立てるなら」
* * * * *
今日も何事もなく、無事に一日の業務を終えたセチア。
寄りたい所も、寄らなければいけない所-例えばお使いを頼まれていたり-もなく、さて後は真っ直ぐ家に帰るだけ。
帰れば、ナナバの用意してくれる美味しい夕食が待っている…
(ほんと、ママのご飯美味しいんだよね)
今日のメニューは何だろう?
聞いてくればよかったかな、でも分からないのも楽しみが増すんだよね。
と、思わずニヤケそうになる頬をむにむにと揉んでごまかしながら、すれ違う人達と仕事上がりの挨拶を交わす。
と、出入り口に向かう廊下を歩いていると、真正面からまた誰かが歩いてくる。
「!」
歩いてくるだけなら、何らおかしなところはない。
ただ、一つだけ。
その人には他の人にはない、不思議なところがあった。
それはその人が、誰か分からない、ということ。
何故なら、その人の両手に抱えられた見事なまでの"本の塔"のお陰で、頭の天辺まで隠れてしまっていたから。
(すごい量……)
かろうじて分かるのは、見上げるくらいの背の高さとそれに見合った肩幅から、"男であろう"ということだけ。
もうすぐすれ違う…
そんな時だった。
「っとと」
彼?がよろけると同時にセチアの耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある声。
「! もしかして、モブリットさん、ですか?」
「あれ、この声は…セチアさん?」
「はい。あの、大丈夫ですか?」