第1章 〜Encounter〜
怖い訳が無い。大好きなアニメに出てくる登場人物が実際こうして私の目の前に居る。こんな有り得ない状況に感極まってしまうのは当然だ。
「…落ち着いたら君の話を聞かせてくれ。昨日話した場所を覚えているか?」
ベッドに腰掛け、優しく私の頭を撫でてくるエルヴィンに鼓動が速くなる。
「はっ、はいッ…!執務室…ですよね?」
「…そうだ。他の者も居るが、話は出来そうか?」
一瞬目を見開いたエルヴィンだったが、また優しく微笑み問い掛けてくれる。
「も、もう大丈夫です。あのっ、顔洗ってもいいですか?」
「あぁ。君なら寝惚け顔も泣き顔も可愛いよ。」
絶対寝起きと涙で化粧はぐしゃぐしゃだ。
お世辞だと分かっていても顔は火を噴きそうな程熱い。
「おっ!お世辞辞めて下さいっ!」
「ハハ、お世辞では無いんだがな。じゃあ、部屋の外で待っているよ。」
そう言い衣装ケースからタオルを出してくれた後、部屋から出て行くエルヴィン。
私は早急にメイクを水でゴシゴシと擦り落とし、ヒリヒリと痛む顔をタオルで包み込んだ。
素っぴんだとかなり童顔になり驚かれるかもしれないが、寝起きと泣き顔でぐしゃぐしゃになってしまった顔よりはましだろう。
「お待たせしました。」
「目元に何かを塗っていたのか?随分と可愛らしくなるな。」
「あ、そっか…。この世界って化粧品とかそんなに無いですよね…。」
「この世界……。あまりそういう事に詳しくは無いが、めかしているのは貴族くらいだな。」
他愛も無い話を続けていると、兵士と思われる人が前から歩いて来た。
「エルヴィン団長、おはようございます!」
敬礼をする兵士達にすれ違う度、エルヴィンが軽く手を挙げながら返事をする。
やはり私自身がこの世界に来てしまったのだと思わざるを得ない光景に軽く身を強ばらせてしまう。
「驚かせてすまない。」
「い、いえ…。」
そうこうしている間に執務室の扉の前に辿り着く。
「もしかして…他の人達って、ハンジさんとかリヴァイ兵長とか…なんて…。」
顔を引き攣らせながらエルヴィンに問うと、ニコリと笑顔が帰ってきた。
「その面白そうな話の続きは部屋の中で頼むとしよう。」