第1章 〜Encounter〜
「フッ…私の名を知っていたのか。」
すまない、と言うように私の捲れ上がった服を直すエルヴィン。
もし知らなかったらどうなっていたのだろうか。
私の想像していたエルヴィンとは少し違うように感じる。
自分の願望がこんな夢を見させているんだとしたら、かなり恥ずかしい。
「夢だと言っていた事と何か関係があるのか?」
「あ…はい。夢なんですよ私の造り上げた…。」
自分で言って凹んでしまう。出来ればずっとこの世界に居たい。
「君は信じないかもしれないが……実際に私はこうして存在している。疲れているんだろう、少し休むといい。部屋を案内する。」
「わっ…分かりました…。」
優しく微笑んでくれるエルヴィンにドキドキしてしまう。
もっとこの瞬間を堪能したいが、確かに少し眠い。
夢の中でも眠れるのか、と疑問に思ったが
聞き分けの悪い女だと思われたくなかった私は素直に着いて行く事にした。
「ここだ。自由に使ってくれ。」
扉が開けられた部屋をキョロキョロと見渡す。
先程の執務室よりは少し狭いが、全体的に木材で板張りされていて清潔感のある部屋だ。
丸いテーブルやベッド、本棚やちょっとした台所の様なものはあるが、生活感はまるで無い。
「私の部屋だが、まだ書類が溜まっていてな…。今日はここへは来ないから安心して眠ってくれ。」
先程した事を気にしているのか、私の警戒心を解こうとしてくれているエルヴィンにお礼を言う。
「色々ありがとうございます、お言葉に甘えて使わせて頂きますね。」
フッと微笑んだエルヴィンが部屋から居なくなり、ドッと疲れがきた私はベッドに腰を掛けた。
「はぁ疲れた……。化粧落とさなきゃ…。」
と言っても、この部屋にクレンジングやシートは無いだろう。
夢でもこんな事を気にしてしまうのかと思うと可笑しくなる。
「まぁいっか…。寝よ…。」
綺麗なシーツをファンデーションで汚したくはなかったが、どうせ目が覚めると現実に戻っている。
エレンに今すぐ会いに行きたかったが、外は寒いし何処にいるのかも分からない。
諦めた私は夢が覚めてしまう事を覚悟し、
静かに瞼を閉じた。