第3章 プラマイゼロ * 宮地清志
ふわふわの見た目からして美味しそうなそれにパクリと齧り付けば、中から出てくる甘いクリームが口内に広がって。
その甘さに自然と笑みが漏れる。
『ん〜、おいひ〜。』
「ハハッ、だらしねー顔。」
『だって美味しいんだもん。』
「そりゃよかったな。」
罪悪感もなんのその。
この甘さと満足感の前にはやっぱり敵わない。
今日食べ過ぎた分は明日で調節すればいいんだ。
そうしよう。
なんて、きっも明日になったら忘れているような事を思いながらパクリパクリと食べ進めていく。
「一花のやつ、ちょっと食わせて。」
『ん?』
いいよ、そう言って差し出そうとしたのに、私が答えるよりも早く少し口を開けた清志が顔を寄せてきて、私のシュークリームを一口奪っていった。
「お、うま。」
そう呟いた後、口の端に付いたクリームをチラリと覗いた赤い舌で舐めとるのを直視してしまい、鼓動が乱される。
ただシュークリームを一口食べられただけ。
それだけでこんなにも私を動揺させられるのなんて清志だけだ。
近い距離には慣れてるはずなのに、急に来られると未だにドキドキする。
それに、普段隠されている舌を見てどうしても思い出してしまうのは、思考を奪われるようなキス。
あの舌に絡みとられると…、とそこまで考えてから、ふるりと頭を軽く振った。
「どうした?」
『な、なんでもない。』
何を考えてるんだ、私は。