第3章 プラマイゼロ * 宮地清志
「何か買うのか?」
やっぱりこの時間に食べるのはやめとこうかな…。
でもかなり惹かれるし、今買っておいて明日にでも食べようかな。
一人で葛藤していると、買えばいいだろ、その言葉とともに手の中からシュークリームが消える。
「お、これうまそーじゃん。俺これにしよ。」
『え…?』
「何?買わねぇの?」
棚からプリンを一つ取り私から奪ったシュークリームと一緒に持ってレジに向かう清志を慌てて追えば、振り向きざまにそう言われて少し悩む。
もしここで買わなければ、この後家に帰ってプリンを食べる清志を見ることになるわけで。
いま我慢しても次の誘惑に勝てるか分からない。
『…買う。』
「だろ?買ってやるよ。」
『ありがと。』
「どーいたしまして。」
私の手から奪い取って買ってくれるそのスムーズな仕草に、ニッと笑うその無邪気な笑顔に、心臓がドキッと跳ねる。
長い付き合いにも関わらず、こうして些細なことで翻弄してくる清志は本当にズルイ。
本人にそう言ってもきっと笑うだけだから言わないけどさ。
ガサガサとビニール袋を鳴らしながら家へと帰り、早速袋から買ったばかりのプリンとシュークリームを出して机に並べる。
「もう食うのか?」
『時間経つと罪悪感増すから、今のうちに。』
「ハハッ、何だそれ。まぁ、いいけどよ。」
笑いつつも私の横に腰を下ろした清志の前にプリンを置き、シュークリームの包装をビリッと破いた。