第2章 呑み込んだ言葉は渦の中《夢野 幻太郎》
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本当に、この人はズルい。
私は無意識の内に持っていたスプーンを
置いて夢野先生を見た。
綺麗な目。
「そんなに見つめられたら照れます。
可愛い顔をしないでくださいよ」
「夢野先生も、目が綺麗ですね」
「………名前で、呼んで」
「————ッ」
「おや、言えませんか?
幻太郎と言っていただければ良いのです」
セフレ歴、は長い方だとは思う。
簡単に別れるカップルよりは長いはずだ。
でも、名前で呼んだことは無い。
名前で呼んだら私の気持ちがバレてしまう。
隠し通せる自信がないのだ。
私が名前も言えず、もごもごしていると
夢野先生はため息を吐く。
「悲しいですねー。
名前も呼んでもらえない程嫌われたとは」
「ちが、嫌いではないです!」
「じゃあ、ナニ?」
「……夢野先生、ヤるなら早くして下さい」
試しているだろう、私を。
【 好きと言った方が負け 】
もちろんそんな約束など交わしていない。
暗黙の了解、ってやつになるのかな。
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