第2章 呑み込んだ言葉は渦の中《夢野 幻太郎》
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———……。
行為の後、叶はサッサと支度を
済ませて帰って行ってしまいました。
私も思わない事を口ずさんで
しまいましたねえ。
そしてまさか。
叶も同じ様に口ずさむとは。
まあ、僕と叶は結ばれる
事などはないでしょう。
きっとお互いに。
今日口ずさんだ言葉は二度と
発する事はないでしょうね。
「そーうだ。
次の麻呂の作品は恋愛モノにしましょう。
正に、悲喜劇其の物ですね」
誰も聞いている訳じゃない、独り言だ。
悲喜劇其の物。実に滑稽。
「来世では、恋人になってくれますかねえ。
まず、叶と来世でも会えますかねえ。
———俺は、叶の事、探せるのかね」
本当、滑稽だ。
嘘と笑い飛ばせればどんなに楽だろう。
その言葉は出ぬまま
私もココを出るとしますかね。
「愛してる、なんて言えたらどんなに楽だろうか」
———せめて、これだけは嘘ではありません様に。
呑み込んだ言葉は渦の中【 end 】
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