第5章 あなたのためなら
「じゃ、またね…!!」
あえて顔を合わせずに言う。
泣きもせずに。
笑顔で去るのでもない。
ここから離れられなくなりそうだから。
ローのことを思い出してしまいそうだから。
これ以上居たら、泣いてしまいそうだったから。
「……花吹雪」
声にならない声を呟く。
花びらが散り、体がぼやけていく。
“……リン…どこにも行くな…。”
やだ…。
来ないでよ。
“私のこの瞳はね…。”
昨日エースに言ったこの瞳のことも…結局言わずに終わった。
忘れてよ。もう。
その時、花びらが舞うのが見えた。
黒い…
チューリップの花びらだった。
なーんだ。
昔となんも変わってないじゃん。
もう早くここから立ち去りたい。
そう思ったその時
海辺にある声が響いた。
「おいリン!これだけは覚えとけ!!」
海に響くエースの声は、余韻のように震え、耳にすんなりと入ってくる。
「おまえはおれの友達だ!だから……おれを信用して待ってろよ!!」
ばか。
昨日私の正体聞いたくせに。
怖がったっていいのに。
それでも私を友達と言うの?
ロー。
もし私の本当のことを知ったら、
それでもあなたは一緒に居てくれたのかな。
さよなら、
私。