第5章 あなたのためなら
「……でも…」
海賊王の子供だから?
子供は恨みをぶつけられる?
そうだ。
きっと世の中の人はそうするだろう。
ゴール・D・ロジャーを“悪人”とし、
その子供も“悪人”と呼ばれるのだ。
ゴール・D・ロジャーが何をしたのか、
そんなことは私には分からない。
だけど――――。
「…私は海賊王の子供だろうが、どうとも思わないかな。」
下を向いていたエースがぴくり、と反応し、ゆっくりと顔をあげた。
「なんでだ?ゴール・D・ロジャーの子供だぞ?世の中の誰もが恨むそいつの子供を…なんでお前は恨まねェ?」
エースの眼は、驚きの表情を浮かばせていた。
「ゴール・D・ロジャーの子供だとしても、その人は…その人でしょ?“海賊王の子供”になるために生まれてきたんじゃない。その人自身の人生を歩むために生まれてきたのよ。」
なんでこんなにも熱く語る自分がいるのだろう?
「……その言葉…信じていいのか…?」
エースの頬を、透明な水滴が瞬きと同時に流れたような気がした。
「うん…いいよ―――。」
同じなんだよ。
私も、エースと同じなんだ。
「こんな……鬼の血を引く俺を…見捨てないでくれるのか…?」
いつかは見捨てられる。
それが怖くて、悲しくて、
“愛される”ことが怖かった。
「……うん。」
エースになら全てを話していいと思った。
ゴール・D・ロジャー。
人々から恨まれ、またその子供も恨まれ。
エースの人生に比べて、
私が“同じ”というなんて軽々しいかもしれない。
でも、言いたかった。
そっと右目に触れた。
この瞳だけが、私の過去の扉を開ける存在―――。
「エース…私の話も、聞いてくれる…?」