第5章 あなたのためなら
火は、リンの隣でぱちぱち、と優しく弾ける音を立てている。
リンが用意した木材に一瞬で火をつけたエースが、少しドヤ顔をしていたのがなんだかかわいかった。
そのエースは、さっきから火をじっと見つめたままだった。
「エース、どうかしたの…?」
リンはエースの顔をちらっと覗いた。
いつもは大きな声で喋るエースがこんなに静かなのは始めてなのではないだろうか。
「あ、いや…なんでもねェ。」
エースがふいっと少し視線を逸らしたような気がした。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。
さっき抱きついてしまったこと?
勝手にお兄ちゃんとか呼んだこと?
他にも何か勝手にやってしまったのかもしれない。
「ごめん、私なんかしちゃった…?」
エースの方を横目でちらっと見る。
「んな訳ねェだろ。自分責めんな。」
エースは一瞬、ふっと笑い、リンの頭をくしゃっと撫でた。
じゃあなんで?
二人の間に沈黙が流れる。
エースは深く帽子を被り直した。
「リン…」
「なあに?」
いつもとは違う、少し低い声。
リンはエースに寄り添い、次の言葉を待った。
「……ゴール・D・ロジャーって知ってるか…?」
その口から出てきた名前は、
どこか懐かしくも感じる名だった――――。