第5章 あなたのためなら
「エース…私、渡せなかった…。」
リンはぽつりと呟いた。
昼間のブレスレットのことだろう。
トラファルガーの奴のことを話しているリンは、とても幸せそうだった。
それを少し、ほんの少しだけ
羨んでしまっていた自分がいたのかもしれない。
嫉妬を感じる自分もいたのかもしれない。
どこかで、心のどこかで
心の底からリンを応援出来てなくて。
今この状況に安心したりとか。
「そうか。……頑張ったな、リン。」
ぎゅっと抱いた。
リンの心臓の音は、
とくん、とくんとゆっくり、規則正しく鳴っていた。
その時点で、リンは船長さんにしか興味がないんだな、と改めて分かった。
「エースってほんとお兄ちゃんみたいで安心する…。」
自分の肩に顔を置いたリンは、耳元でくすっと笑った。
“お兄ちゃん”か。
そう呼んだリンに
もし、俺が“鬼の血”を引いていると言ったら。
もうお兄ちゃんとも呼んでくれないだろう。
“ゴールド・ロジャーにもし子供がいたらァ?そりゃあ『打ち首』だ!!!”
“世界中の人間のロジャーへの恨みの数だけ針を刺すってのどうだ?”
幼い頃の記憶が、頭の中で谺響する。
俺は、世界中の人々がロジャーへの恨みを晴らす対象になるためだけに生まれてきたのだから。