第5章 あなたのためなら
「なぁリン、上見てみろよ。」
潤んだ瞳から、涙が溢れ出しそうになるのを止めたのは、エースだった。
涙だけじゃない。
何か、熱くて、胸をきゅっと締め付けるものも一緒に。
「わぁ……!」
エースは大きな帽子を深々と被っている。
そのせいで、表情はよく見えなかった。
どうして分かったの?
一瞬不思議に思い聞こうと思ったが、開きかけた口は、それ以上動かなかった。
空には、水晶のような無数の星が瞬いていた。
まるで、私の代わりに泣いてくれているようだった。
ふと横を見ると、エースの手には小さな炎が灯っていた。
炎はゆらゆらと動いて、それがキラキラと海にも映った。
暗い海辺のでたった1つ光る、道しるべのように。
「エース…私、渡せなかった…。」
昼間、エースに手伝ってもらったのに。
あんなに気持ちを込めたブレスレットだったのに。
私は、最後に何も残すことが出来なかった。