第5章 あなたのためなら
「あれ、リンか?まだ明日まで時間あるぞ?早いじゃねェか。」
聞き覚えのある声だった。
「エ、エース…?なんでここに…っ」
不意打ちのように声をかけられ、“ハート”のことは頭から抜けていった。
「なんでって、リンの旅立ちを見送ろうと思ってよ、明日まで待とうとしてたら…なんでここにいるんだ?まだ時間じゃねェだろ?」
旅立ちなんてもんじゃない。
私はただ―――。
その時、砂浜に描いたハートの海賊団のマークが波に流される。
そして、波と共に青く、暗い海に吸い込まれていった。
海から押し寄せた波だけでなく、
胸にまで苦しい波が打ち寄せたような気がした。
すとん、とエースがリンの横に座る。
何かを察したように、エースはこれ以上何も聞かなかった。
二人の間に、波の音だけが規則正しく流れた。
何もかも、
いつかは消えてしまうのだろうか?
さっき砂浜に描いたマークのように―――。
喉が、込み上げてくる涙を吞み込むかのようにごくりと動いた。
やだ。
泣きたくない。
泣いた分だけ
悲しみも忘れて、
その分思い出も忘れそうで。
涙と一緒に何もかもが出てしまいそうな気がしたから。