第5章 あなたのためなら
“ねぇ、エースっていう人知ってる?”
リンの口からアイツの名前が出てくるとは思わなかった。
“1回だけ会ったの。”
いつだ?
俺達と出会う前か?
自分と出会う前のリンを火拳屋が知ってると思うと、ムカムカしてくる。
俺達と出会った後に会ったのだったら尚更だ。
俺は会っていないのだから、火拳屋とリンは二人きりで会ったことになる。
ローは更なる苛立ちを覚えた。
胸に抱えていたのはビブルカードだろう。
新世界だけにある、その人の生命を表すカード。
リンのも作りたいものだ。
そうすればどこにいるかも分かるし、安否も分かるのに。
リンが火拳屋を褒めちぎるのは、おもしろくない。
すごいとか、いい人だとか、強そうだとか。
聞いているだけで胸が締め付けられる。
「エース、おいしいって言ってくれるといいんだけどなぁ。」
リンは楽しそうにボウルで何かを混ぜている。
リン、ウォーターセブンで火拳屋に会うのか?
1回会ったって、どこでだ?
火拳屋とはどういう関係なんだ?
聞きたいことはたくさんある。
いや、聞きたいというより探りたい。全部を知りたい。
けれどローは、胸元まで出てきたものをぐっと押し込めた。
リンの全部を知っていたい。知り尽くしたい。
どこで生まれたのか。
過去に何があったのか。
出会った時、なんで海軍にいたのか。
その眼帯の下にある瞳はどんな色をしているのか。
なんで最近は、よく泣きそうな顔をするのか。
リンの本当の顔を見るには、まだまだローは何も知らない。