第5章 あなたのためなら
リンは帆までかかるはしごを組み立てた。
クルー達はとっくに眠りについている。
ずっとローの部屋に居たから気付かなかったが、時計の針はもう深夜の1時を指していた。
月の光がリンを、そしてリンの心を明るすぎるくらいに照らす。
この船は潜水艦だけど、水上に出ているのも気持ちが良い。
船が水上にいる時には、帆の上に登るのが1番すきだ。まぁ能力を使って登るから、誰も見ていない夜に限るが。
夜風が私をふわっと包む。
リンは、まだ熱がとれない唇にそっと手を当てた。
サカズキとした“取引”。
消えることがなく、逃げることもできない。
サカズキの言葉は、リンの心の中に眠っている気持ちを、暗く、深く、決して手に届かない所へ押し込めた。
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眩しさにより、うっすらと開けた目に映ったのは、いつもと違う風景だった。
青い…?
「っ!?」
慌てて辺りを見渡すと、リンは帆の上にいたことに気付いた。
(そっか、昨日の夜…。)
リンはあの後、うとうとしているうちに寝てしまったのだ。
(毛布…誰が掛けてくれたのかな。)
ただ夜風に当たろうと思ってここへ来たのに、自分で毛布など掛けるはずがない。
そんなことをぼんやりと考えていると、何やら甲板から歓声が聞こえてきた。
『キャプテーン!!!』