第6章 何のため?誰のために?
“泣けばいい”
貴方は唯一、私を許してくれていた。
泣けばいいなんて、
笑うななんて、
言われたことがなかった。
貴方の前では
少し素が出る自分がいたのだ。
でもまだ、怖かった。
泣くことも、笑うことも、
全部
貴方の思い通りになれば
どんなにいいだろうか。
――――――――――
「着いたぞ…っておまえ、大丈夫か?」
海を見ているうちに、夢の中に引き込まれるようなぼんやりとした感じに襲われていた。
「ん?何が?」
心配される程ぼんやりしていたかな、と笑みを浮かべようとする。
「おまえ、泣いてるぞ。」
どくん、と心臓が激しく動悸した。
「いや、これは違…泣いてなくて、」
否定しているのに、
泣くなんて違う。周りの人が困ってる。
止まってよ、私の涙。
拭っても、拭っても、
はらはらとひとりでに零れ落ちていた。
「戻るなら、今しかねェぞ。」
葉巻の独特な匂いが、密かに香のように立ち込める。
変わらないその優しさ、
今はそれが、
胸を痛めるの――。
「何言ってんの、もうそれは終わったことだよ。ごめんね、いきなり涙流しちゃったりして。」
これだ。
いつも通り、上手く笑えた。
泣いてなんかない。
ただちょっと、涙が流れちゃっただけ。